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NHK以外のテレビ局が黙祷すらしない夏――2008年の8月6日午前8時15分。
63年前に広島に落ちたあの爆弾を、風化させまいと懸命なマンガ家がいた。

〔コミック版〕はだしのゲン 全10巻

学校の図書室で、あるいは夏休みの課題図書として出会った人も多いだろう、『はだしのゲン』。この作品を描いた中沢啓治が、8月6日、テレビ朝日系のワイドショー「スクランブル」に出演した。インタビュアーは山本晋也監督。

 

■中沢啓治の略年譜

今年で72歳になる中沢啓治は、1945年、6歳の時に爆心地から1.2キロメートルの地点で被爆。父・姉・弟を失った。9歳で手塚治虫の「新宝島」を読み、マンガ家を志す。
22歳で上京、一峰大ニのアシスタントを経て、1963年『 スパーク1 』でデビュー。『被爆者の側によると放射能がうつる』といわれ、あからさまな差別にショックを受ける。それからは被爆者であることを明かさず、原爆とは無縁のマンガを描く。
1966年10月、一緒に生き残った母が原爆症で死亡。放射能を浴びた骨はもろく、粉々になって残らなかった。

「原爆の野郎、大事な大事なお袋の骨までとっていきやがった」

怒りに震えた中沢が一週間で描き上げたのが、原爆マンガの第一作め『黒い雨にうたれて』だった。

しかし、戦争批判を謳い、原爆という重いテーマをもったマンガを受け入れてくれる出版社は、なかなか見つからない。結婚して赤ん坊が生まれたこともあり、売れる漫画を描くことが先決だった。『黒い雨にうたれて』がようやく「漫画パンチ」に掲載されたのが2年後。評判がよかったため、<黒いシリーズ>が始まった。

「週刊少年ジャンプ」でも連載をもっていた中沢は、『ある日突然に』『おれはみた』等で自伝的な読み切りを描き、大きな反響を得る。当時の長野規(ただす)編集長の「長期連載をやらないか」 のひとことで、1972年「週刊少年ジャンプ」にて『はだしのゲン』連載が開始された。

はだしのゲン 〔映画版〕  はだしのゲン  黒い雨にうたれて

<映画・アニメ化リスト>
・映画『はだしのゲン』公開。(一作目:1976年/二作目:1978年/三作目:1980年)
・アニメ『はだしのゲン』公開。(一作目:1983年/二作目:1987年)
・アニメ『黒い雨にうたれて』公開。(1984年)
・アニメ『クロがいた夏』公開。 (1990年)
・映画『お好み八っちゃん』公開。中沢啓治原作・脚本・監督。(1999年)
・フジテレビ『千の風になってドラマスペシャル はだしのゲン』放映(2007年)

<受賞リスト>
1975年、『はだしのゲン』、日本ジャーナリスト会議会奨励賞受賞。
1977年、チェコスロバキア・カルバリ映画祭にて『はだしのゲン』原作賞受賞。
1983年、アニメ『はだしのゲン』、毎日新聞映画コンクール「大藤賞」受賞
1987年、中沢啓治、アメリカ・ダラス市名誉市民称号授与。
1996年、中沢啓治、広島ホームテレビ文化賞受賞。
2002年、中沢啓治、第14回谷本清平和賞を受賞。

黒い雨にうたれて

■『黒い雨にうたれて』

中沢啓治が原爆をマンガに描いた、初めての作品。
描かれた経緯は、前記の「■中沢啓治の略年譜」のとおり。

被爆者として、また被爆者の家族としての怨念を描いたといえるこの作品は、いちばん新しいところで、同タイトルの短編マンガ集『黒い雨にうたれて』(ディノボックス刊)に収録。
『黒い雨にうたれて』以外に、『黒い糸』『黒い沈黙の果てに』『黒い蠅の叫びに』『黒い川の流れに』『黒い鳩の群れに』『われら永遠に』『黒い土の叫びに』の計8編の<黒いシリーズ>が収められている。どの作品も原爆の悲惨さと被爆者の苦悩を、怒りをまじえて訴えていて、メッセージ性が強い。
アニメ版『黒い雨にうたれて』は、<黒いシリーズ>から何編かミックスしたストーリーになっている。

はだしのゲン 1 (1)

■『はだしのゲン』

中沢啓治の自伝的作品。
1972年「週刊少年ジャンプ」で1年半連載されるも中断、「市民」「文化評論」と転々とし、「教育評論」にて完結(第一部)。
内容が内容だけに、どの出版社にも単行本化を断られる。結局1975年、汐文社より刊行。(ジャンプ連載分は、作品を読み感動した朝日新聞の記者の尽力によって、連載中断半年後に集英社で単行本化されている。)現在の単行本(文庫本含む)の累計発行部数は1000万部以上。

ジャンプに連載され、単行本化された時期よりも、1980年代以降によく読まれているといえる。というのも『はだしのゲン』は、1980年代初頭の反核運動の盛り上がりなどを背景に、「進歩的」な大人たちによって、学級文庫や学校図書室へと導入されたからだ。

もっとも子供たちの側は、「学校にマンガがあったから」「課題図書だったから」という理由で読んでいることが多く、大人の意図とは別の読み方をしていることも。

「怖くてトラウマ」(これは少なくとも作者の意図ではあるらしい。)
「反戦思想は押しつけがましいが、たくましく生きていく人々が描かれているのは素晴らしい」
「怖さも突き詰めると笑える」
「まともな主張してるハズなのに、どこかしら変」

このあたりがネット及び周囲で拾った意見である。
どちらかといえば、「こう読みなさいという押しつけは拒否!でもマンガは面白い!ツッコミどころ満載だけどね♪」といったスタンスが多いと思う。

しかし、作者自身の体験がベースのこのマンガ。根っこのところにあるのは怒りだ。原爆によって家族を奪われ、差別を被り、自身も病に冒されている。その理不尽さへの怒り『はだしのゲン』の原動力なのだ。

かつて中沢はこう語った。

「僕は弟の頭蓋骨を持った瞬間が、背中にこびりついている。ジリジリ焼かれていって熱かっただろうなあと。殺すんだったら、もっと楽に殺してくれと。」

これは弟を失ったゲンの怒りである。ふくれあがった皮膚がただれて剥がれかけた被爆者を見てしまったゲンの怒りでもあり、そんな被爆者を描いてしまう中沢の怒りでもある。

あまりにも残酷な(といわれる)描かれ方をした被爆者たちと、ゲン=中沢の間にさほどの垣根はない。同じ広島で同じ熱線を浴びた以上、いつ死が訪れるかわからないという同じラインに立っているのだ。

その思いこそが、そこらへんの「反戦反核」マンガから『はだしのゲン』を切り離して存在させているといっていいだろう。

 

作者自身は、「若者に戦争や核兵器をなくそうという気持ちが芽ばえてくれたら本望」なのだと語ったことがある。実際その思いは、『はだしのゲン』というマンガのそこここに分かりやすくまぶしてある。

しかし、あまりにもダイレクトにまぶされているため、読者がダイレクトに受け取りづらくなっているのも本当だ。

明確な「反戦反核」の思想よりもむしろ、ゲン=中沢の怒りを受け取りたい。

それが、幼少期にこのマンガに出会ってもやもやし続けた自分の結論、である。
…かもしれない。(弱気)

 

■『黒い雨にうたれて』実写映画化

自らも被爆者である中沢啓治は、原爆の後遺症として早くから糖尿病を患い、2001年頃から視力が低下。細い線が描けなくなったため、現在では漫画を描いていない。

そんな中沢が意欲をみせているのが、『黒い雨にうたれて』の実写映画化だ。

以前、実写版『はだしのゲン』の原爆投下のシーンがまだまだ手ぬるいことが、アニメ版の制作へとつながったという。『黒い雨にうたれて』を実写化する時には、原爆投下の場面もCG技術を駆使してリアルに描きたいとのこだわりを持つ。

また、原作に忠実な殺し屋と盲目の少女の物語を描くことで「ハードボイルドな面白い映画ですよ」といって、「アメリカに持っていって上映したい」と希望している。

 

原点に回帰したともいえる『黒い雨にうたれて』実写映画化だが、CG技術はそんなに万能ではないのではないか、と案じてしまうのは、いらぬおせっかいであろうか。CGに凝れば凝るほどウソ臭く、白々しくなる気がしてならない。

しかし、おそらくは作者の目の奥に焼き付いている凄まじい光が、それなしで物語を成立させまじという無意識の枷になっているのであろう。

ならば読み手側にできるのは、中沢啓治を見守ることだけ。
かの鬼才が放つ(おそらくは最後の)矢を、受け止めることだけだろう。

 

■蛇足

ところで、民放はいつから黙祷しなくなったのだろうか。

まだ歴史というには生々しい傷跡なのだから、やくたいもない情報を垂れ流しているくらいだったら、1分間の静寂とともに原爆犠牲者の魂のやすらぎを祈ったって、バチは当たらんと思うんですがね。

AKAEは真ん中あたりをフラフラしているゆるーい人間ですが、さすがにどーよと思うわけだ。
ちょっとした建前として残しておけよ、と。
そんなに本音=視聴率主義=金ばかり大事とかいうなよ、と。

ちなみに唯一平和祈念式典を中継したテレビ朝日(中沢啓治特集を組んでいた)は、黙祷つーか、コメンテーターがずーっと静寂の邪魔をなさっていらっさいましたね。

 

これが、――63回目の夏。

 

(※AKAE本人の記憶に頼って書いている部分もあります。間違いがあったらお知らせください。調べ直して対処させていただきます。)

【関連記事】
広島、長崎と『はだしのゲン』・・原爆と戦争の傷跡を語る漫画たち

【関連サイト】
はだしのゲン公式サイト「1995 Gen Production」
フジテレビ『千の風になってドラマスペシャル はだしのゲン』公式サイト

「BIGLOBEストリーム」では、次の2作品が無料で視聴できます。
アニメ『黒い雨に打たれて』無料視聴
アニメ『クロがいた夏』無料視聴

投稿者:AKAE
 

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